巨人の肩に立ちたいゲイ

30代ゲイのブログ。ゲイとしての考えたことをアウトプットしたり整理したりするような場にできればと思っております。やまとなでしこの頃の堤真一が好きです。

パパ活とセフレの比較文化論,あるいは研究者の品格

ゲイって,近くに住んでいて互いの見た目が多少好みである,という理由だけで赤の他人と会って食事したりするじゃないですか.となると必然的にストレートな社会では出会わないような人たちと知り合うこともあるわけです.それが刺激的で面白くもあり,一方で面倒でもあるという.社会学者のマーク・グラノヴェターは「The Strength of Weak Ties(弱い紐帯の強み)」と言う説を唱え,イノベーションにはちょっとした知り合い,つまりは異なるコミュニティに属する者同士を繋ぐ関係性が重要であると考えました.このコンセプトは近年ネットワーク科学において「スモールワールド性」として定量化され,卑近な例では感染症モデルにおけるスーパー・スプレッダーのメカニズムの説明にも用いられたりしています.ゲイというのはコミュニティを容易に飛び越えて交流しますので,それはイノベーションの源泉にもなるし,その逆の働きをすることだってあるのかもしれません.

 

このWeak Tiesについて考えると,学生時代に二丁目でやっていた大学生対象のクラブイベントで知り合った同い年のA君を思い出します.彼は高校生の頃からパパ活(ゲイ界隈においては"サポ"などと呼ぶようですが)をしていて,数年間に渡って上場企業の役員と仲良くしていたのだとか.確かに,長らく水泳をやっていて体つきはガッチリしていたし,何よりその若さと向こう見ずさというのは大きな武器だったことでしょう.当時就職活動を控えていたその彼が得意げに語るには,「社会の上層にはゲイがいっぱいいる」「ゲイなんだからそのコネを使って就職するのが一番コスパがいい.俺は仲良くしてる外資系企業の役員に採用枠用意してもらうつもり」とのことでした.なんだか別世界の話をされているようでいまいちピンとはこなかったのですが,そんなこともあるのかなぁと考えていました.帰り道,同じくイベントで知り合ったB君と一緒に「あんな歩くカミングアウト案件に金を払う大人がいるくらいだし,世の中ってわからないね」という負け惜しみで互いを慰めあったのを覚えています.

 

その後,僕がいろいろと悩んだ末にイケメンを追いかけて入社する企業を決めた頃,知人からA君をゼネコン業界の合同説明会場で見かけたという話を聞きました.どうやら,彼のパパはお小遣いはくれても就職の面倒までは見てくれなかったようなのです.別に建設業界自体が悪いわけではないけれど,カルチャーとしてはパパ活をしてきたゲイと正反対に位置していそうではありますね.ちなみにそれより少し早く,B君は面接段階からゲイであることをカミングアウトしつつ某外資系医療品メーカーにスルッと採用されていました.更にその3年後には,B君の彼氏が僕の会社に入社したいと言い出したらしく,社員訪問先として僕の連絡先を伝えてもよいかというメールが.もちろん引き受けて,友達の新しい彼氏を見ながら(あいつ毎回ヤンキーくさい年下と付き合ってるよな...)業界の体質やゲイにとっての働きやすさなどをアドバイスしました.果たしてA君とB君,どちらがゲイとしてのWeak Tiesを活用できていたのでしょうか.

 

 

もちろん社会人になって本格的にリアルなどをはじめて以降,様々な職業の方と食事をし,ときには一夜をともにしました.ある程度確証が取れているだけでも,官僚・弁護士・建築士・アナウンサー・大学教授・画家・(元)ビデオモデル・内科医・看護師・看護師・看護師...など,いろいろといらっしゃいました.男性看護師のゲイ率が異常なのはさておき,これだけの出会いがあると場合によっては仕事上でのニアミスなどもあり得るわけです.

 

ここではCさんとしますが,僕が3年ほどに渡って食事もするセフレという関係性を続けていた方がいました.彼は僕のちょうど一回り年上で,僕の研究分野に近い事業領域で技術営業のようなことをしている模様.若い頃には二丁目と新橋でそれぞれ週末に店子として働いていたそうで,今でも十分にモテそうな短髪ヒゲガッチリの結構な男前.そして何よりバリタチ.キスもうまい.酒もかなり強かったので界隈ではさぞぶいぶい言わせていたのではないかと思われました.詳しく聞かなかったのですが,毎回僕の部屋で会っていたことを勘案すると長年の相手と同棲でもしているんじゃないかな?くらいに考えていました.

 

そんなCさんからある時,電話で話がしたいというLINEがきました.会う前後か正月の挨拶くらいでしかやりとりをしない間柄でしたので少し驚きましたが,断る理由もないので了承しました.かかってきた電話での説明によると,どうやら仕事上での相談というかお願いがあるようでした.要約すると以下のようなもの.

  • 社内で簡単な技術報告(A4で2段組み1ページ)を執筆しなくてはならない
  • お題がCさんには馴染みのない新しい技術に関する内容であり難航している
  • shouldersの研究分野にはある程度近いので,代わりに書いて欲しい
  • クオリティーは低くて構わないが,締切が3日後である
  • お礼に食事をおごる

さて,これについてどう考えるべきでしょうか.聞いた限りではそこまで大変ではなさそうです.低品質なもので良ければ心当たりのあるwebページや報告を数件調査して簡単にまとめれば良いわけですから,数時間かければ要件を満たす報告は可能です.しかしわずかに心に引っかかるものが.僕の仕事の性質上,普段から論文や特許を書くこともありますし,共著ではありますが技術解説の著書もあります.僕は研究でもって飯を食っていて,その価値は一応客観的にも認められているわけです.そのような領域において果たして,「1食分の報酬程度の」「適当な内容のものを」「やっつけ仕事で」書き上げるというのはどうなんでしょうか.しかも「一回り年上のセフレ」のために.

 

今思えばそんなにカリカリする程のことでもなかったでしょう.別にタダで頼まれたわけでもないですから.ただ,やっぱり職業人としての矜持のようなものが頭をもたげてしまうのです.研究者レベルのクオリティは全く求められていないわけですから,Cさんにだって時間をかければ書くことのできる代物なのは明白でしたし,半分面倒くさくて僕に仕事を投げているのではという疑念を払拭できません.付き合い自体は長いけれど,相手に彼氏がいるかどうかも知らない程度の関係性.港区に住んでいて,名の通ったメーカーの子会社に勤めていて,部下のマネジメントに苦労していて,焼き鳥と焼酎が好きで,柴犬を飼っていて,親にはカミングアウトしていなくて,ジムではよくレズミルズをやっていて,下着は常にアンダーアーマーのボクサー.それくらいです.

 

とは言っても,頼まれれば基本的には引き受けてしまうのが僕なので,その時も電話口で承諾しました.ただし,社内ローカルの報告書なのでどんなフォーマットなのか,どの程度の語り口が相応しいのか,そのあたりはCさんに最終的な編集責任を負ってもらうことにして,調査と報告書のストーリー構築までを担当することに.自分の仕事を終えてから調べ物をして,ささっと片付けるつもりが案外熱中してしまって深夜に原稿の骨子を送信.これでお役御免です.後は飯をおごってもらう,んでもって僕の部屋で一戦交える予定調整をすればいいのかしらん.

 

...でもなんか納得がいかない.確かに,彼と飯を食うときは毎回割り勘でしたから,ご馳走してくれるというのは本件の報酬としては成立しています.しかし,これまで飯屋を探すのも僕だし,部屋も毎回提供してきたし,出張のお土産とかももらったことがありません.なんだか毎回僕が持ち出すばかりでバランスが悪くなかろうか.こんなことを考え出すと止まらないわけです.まあ客観的な事実として,彼のほうがゲイとしてのヒエラルキーが上位なのは間違いないわけですから,悲しいことに全てはそれで説明がついてしまうわけですけど.女々しい被害妄想の結論として,些細な仕返しではありますがこちらからスケジュール調整を一旦止めてみることにしました.やはり仕事への最低限のリスペクトは大事ですからね.それを解さない男は例えセフレであってもお断り,関係解消も辞さない構えです.

 

 

というのが6月の話だったわけですが,緊急事態宣言に入る前のタイミングを見計らってCさんから結構ちゃんとした食事の誘いが入りました.のこのこと連れて行かれた先が六本木のウルフギャング.いつもは焼き鳥か串焼きをリクエストするくせに,東京カレンダーでも読んで予習したのでしょうか.早い時間に入ったのでワインも飲めて,何より肉がめちゃくちゃ美味しく,おまけにチーズケーキまで食べたのでこれはもう断然許しました.こんな飯を食わせてくれるなら,技術報告の1つや2つは朝飯前です.親しきセフレの仲にも礼儀ありと申しますが,どうやらCさんはちゃんと分かっていたようです.

 

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うまし!

 

その後僕の部屋で飲み直し,成り行きでそのままベッドへ.久しぶりに見るCさんの身体は少し緩んでいるものの十分に筋肉質で,キスのテクニックも申し分有りません.乳首を執拗に甘噛してくるのも3年間相変わらずです.若干柴犬臭いのはご愛嬌でしょうか.事前にシャワーを浴びれば解決するのは分かっていますが,彼とはいつもなし崩し的にセックスになだれ込むので大抵は事後です.そんなこんなで一戦交え,終電前に帰っていくCさんをスッキリした気分で見送りました.久しぶりの飲酒と射精,それから他人に対する失望の回避が為せる技でしょう.この日ばかりは賢者タイムもどこか爽快感を含んでいました.

 

まあそんなこんなで,僕の研究者としての矜持など柴犬にでも食わせておけというオチなわけですけれども.もともと何を話したかったかと言うと,世の中の「スモールワールド性」の一端を担っているであろうゲイのなかにも,A君のようにWeak Tiesを活かすのが下手くそな奴もいれば,B君やCさんのようにそれを上手く利用する人もいるよね,ということ.僕は人を頼るのが比較的苦手なほうなので,彼等を見習ってもっとしなやかに生きていきたいな,と思ったのでした.頼られたほうも案外気分がいいものだしね.

 

おしまい.