巨人の肩に立ちたいゲイ

30代ゲイのブログ。ゲイとしての考えたことをアウトプットしたり整理したりするような場にできればと思っております。やまとなでしこの頃の堤真一が好きです。

打算的なカミングアウト

大学時代,仲の良い4人組のグループがありました.男が僕ともう1人,女の子が2人.同じ教養の講義を取っていたことで自然と話すようになり,それぞれ学部もサークルも違っていましたが,なんとなく思い出したように飲みに行く間柄でした.この関係は卒業後も続き,互いのオフィスが比較的近かったこともあって四半期に1度は「今日はランチに行きます!」というメールが午前中に飛び交って突発ランチ会を開催したりしていました.知り合いの噂話や会社の愚痴で盛り上がる様子は傍から見れば仲の良い大学の同期.しかし僕の目線からは全く別のものに映っていました.これは女子2人+ゲイ2人による社会への風刺に満ちた呪詛返しの企み.要はただの女子会です.

 

片割れの男を仮にAと呼ぶことにします.出会ってから僕がAをゲイだと確信するにはそれほど時間を要しませんでした.トークは軽妙で毒々しく,どこかフェミニン.カラオケではマライアキャリーを歌いこなし,何の脈略もなく突然ジムに通い出して日に日に腕が太くなったかと思えば,gleeの2ndシーズンを何度も見ては涙する.ゲイが服を着て歩いているとはまさに彼のこと.もちろん,最終的には彼のスマホの通知に「9」の文字が見えたからなんですけどね.自分でも驚くほど,完全な平常心で直ちにその事実を受け入れました.共通の友人達も疑ってはいましたが「あいつって本当のところはどうなんだろうね?」という会話に終始するだけ.「あんなノンケいたら逆に怖いわ!」と叫び出しそうになりましたがもちろん沈黙を守りました.やはり同性愛者がすぐ隣りにいるという事実を認識するのは簡単なことではない様子.

 

もちろん女性陣2人が勘付いていないわけはなかったはずなのですが,このグループの良いところは互いの距離感をちゃんと保っているところでした.Aのいない席で彼の話をしても,セクシャリティについて話が及ぶことはありません.案外,確定的に明らかなので話すほどのことでもないという認識なのかもしれませんが,いずれにせよありがたいことです.

 

さて,そんなふうにしてAとはゲイであることを前提とせずに10年以上の付き合いを続けてきたわけですが,彼は数年前転職を機に関西へ引っ越していきました.その時点では女性陣もそれぞれ結婚出産といったライフステージにおり,頻繁に顔を合わせて飲むという機会もほとんど無くなっていたのですが,それでも遠くに行ってしまうのはやはり寂しいもの.この人間関係が全く失われてしまうという程の危惧はなかったものの,何らかの努力がなければ一気に疎遠になってしまうかもしれません.ゲイとしての人間関係というのは多くの場合,共通のセクシャリティを入り口として形成されます.日常生活の中で自然とできた友人がゲイだったなんて,希少というほどではないかもしれないけれど大事にすべきでしょう.セフレと元カレ以外にほとんどゲイ友のいない僕が事ここに至って「彼にカミングアウトすることでこの関係性を強化できるのではないか?」と考えたのも無理からぬことです.

 

そうは言っても彼と会うときはいつも誰か友達が一緒だったし,近頃はコロナ禍で会って話すこともままなりません.カミングアウトというアイディアは悪くないように思えたものの,それを実行するための条件が自然に揃うことはなさそうでした.そもそも僕のカミングアウト経験は家族に限られており,身内以外では初めての経験.いくら確実にゲイだとわかっている相手であっても,これまでの関係性に確実な変化をもたらすことが想定される行為ですから,いきおい慎重にならざるを得ません.

 

しかし昨年,Aが久々に帰省するタイミングで4人で集まり食事をする機会に恵まれました.場所は僕の部屋,女性2人は子供もいて遅くまでは居残らないでしょうから,酒が好き,何よりしゃべることが死ぬほど好きな僕とAは最後にはサシ飲みになることはほぼ確実と思われました.いやもちろん,この仲間内なら全員にカミングアウトしても良かったんですけど,僕の告白はAにもカミングアウトを強いるような空気を作り出してしまうでしょうからまずは順番に,というところです.

 

当日,それぞれが酒や肴を持ち寄り,僕はUber Eatsと共に慣れない手料理を振る舞いながら久しぶりの再会を喜びあいました.ひとりは旦那の愚痴と転職活動の話を,もうひとりは上司への文句と近所付き合いの面倒くささを,そしてAは最近できた部下への苦労と溜まりに溜まった関西人への不満を爆発させていました.それ以降は,賃貸にするか持ち家を買うか,今株を仕込むならどんな銘柄が良いのか,昇進の基準や人事制度と福利厚生についてなどなど.そんな話をしつつ「俺らも30代だよねー」などと笑い合ってお酒を煽りました.

 

お昼に乾杯してからいつの間にか外が暗くなっていました.家庭のある女子2人は旦那と子供の待つ自宅に帰る時間です.今度は軽く日帰り温泉にでも行きたいね,などと学生時代のような口約束を交わしながらお別れ.僕の予想通りAはそのまま居残ってくれるようです.楽しい時間だっただけに少々飲みすぎてはいますが,それでも今日の最重要ミッションはこれから.新たにスパークリングワインの栓を開けたところでこう切り出しました.

 

「俺ら付き合いは長いけど,Aとサシで飲む機会ってほとんどどなかったよね?」

 

Aは,「確かにねー」と頷きながら,shouldersはいろんなコミュニティに顔だしてるから一人でいることが少なかったし,今日の4人で飲む時は皆きちんと解散できるタイプだったから,と答えました.飲み始めてから既に8時間以上が経過しています.これ以上グダグダする必要もなさそうだという判断はとうにできていて,あとは僕が話を切り出すだけ.察しのいい彼なら十年来の交流の中で僕がゲイであることに気づいていてもおかしくないでしょうし,そうでなくとも互いに確固とした信頼関係は築けています.この場でカミングアウトすることで失うものはありません.

 

「それでさ,今日はAに言っておかなきゃいけないことがあってさ.」

 

「えっ,なになに怖い(笑)」

 

「実は俺ゲイなんだよね.Aもそうじゃん?」

 

「ええええええええええええええええええええええええええ!(爆笑)」

 

言ってしまいました.考えたらセリフとかちゃんと決めてなかったのもあり,「Aもそうじゃん?」などという要らぬ言葉を付け足してしまいましたが.Aの反応は書いたとおり大爆笑.酔っているせいもあったのでしょうが絶叫していました.彼曰く,僕がゲイだとは全く気づかなかったとのこと.何度も「バイでもないんだよね?」と確認され,「ちょっと擬態が巧すぎるけど,それもまた社会の闇だね笑」と最後はいつもの調子に戻っていました.印象的だったのは,Aがポツリと放ったこの言葉.

 

「ただ,shouldersがゲイだってのは少し残念でもある.知性が偏見を克服した事例が1つ失われたから」

 

Aは僕のことを”分別があってセクシャリティに偏見のないノンケ”と認識していたんだそう.だからこそ,(過分な評価ですが)知性に基づけば正しい配慮ができるようになる,という稀有な事例として受け止めていたんだとか.ですから,蓋を開けてみると結局お互いに訳知りだっただけかよ!という事実に若干の失望を覚えたようでした.更には,僕が友達と一緒に風俗に行ったみたいな話もこれまで何度も聞いていて,そこまで気合の入った擬態ができてしまった僕のメンタリティに若干引いていたのも確かでしょう.

 

とは言え.結局2人の関係性の本質は変わらないので,酔いに任せて引き続きおしゃべり続行です.これまでの答え合わせをするかのように,共通の友達や先輩のゲイ疑惑,お互いの歴代彼氏の話,どんなバーに飲みに出ているかというような下世話な話題を肴にワインを流し込んでいきます.これまでの付き合いで十分に気が合う事はわかっていましたが,ゲイであるという共通項が増えて更に会話の幅が広がったような気がした夜でした.サシ飲みに移行してから2本目のボトルが空いたところでそろそろ電車を気にする時間.お互い喋り疲れてきたこともあり解散の雰囲気です.「話してくれてありがとう!」と手を広げハグを求めるジェスチャーをしたAに,僕はふらつきながらも応じることにしました.言ってよかったなと心底思いました.

 

翌日,昼過ぎに目が覚めるとLINEにメッセージが入っていて,「今度は二丁目でも堂山でも一緒に飲みに行こうー」とのこと.これがゲイ友というものかしら,と独りごちました.そう言えば昨晩別れしなに交わした会話が,ひどい二日酔いのなか思い起こされます.

 

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実はもう一緒に飲みに行ったので,そのうちブログに書きたい気持ちです.

 

俺たちはノンケみたいに適当に生きているわけじゃない.キャリアだって仲間内でのキャラクターだって,どれも細心の注意を払って選択してる.家族ができて今更「大人です」みたいな顔ができるようになったノンケに負ける気がしないわ!

 

...お互いに思っていたより泥酔モードだったようで,柄にもなくアツくなってしまったようです.反省です.でも,こんな話を共有できるのもまた,同世代でバックグランドを共有できるゲイ友ならではなんでしょうね.

 

こうして,僕の友人に対するはじめてのカミングアウトは完了しました.相手がゲイだとわかっていて,既に十分すぎる人間関係ができていて,ある意味満を持して実行に移したカミングアウトですから,これはもう諸条件が違いすぎてノンケに対するそれとは何もかもが違うのかもしれません.ただ,仮に打算的であってもAとの関係性をより面白いものにできたはずですし,確かな高揚感もありました.大変に満足です.そんなわけで,カミングアウトについてあれこれ言えるほどの経験があるわけではないのですが,損得勘定を前提に,安全に,ロジカルに.そんな打算的なカミングアウトも悪くないんじゃないかと思う2022年です.