巨人の肩に立ちたいゲイ

30代ゲイのブログ。ゲイとしての考えたことをアウトプットしたり整理したりするような場にできればと思っております。やまとなでしこの頃の堤真一が好きです。

ゲイバーでカラオケを熱唱し諸行無常を感じた話

3年前にブログを立ち上げてすぐ,以下のエントリを書いた時点ではゲイバーに関してほぼほぼビギナーだったわけですが,なんやかんやであれから10回程はお邪魔する機会に恵まれ,おまけに1人ゲイバーも達成することができました.基本的にはセフレに「バー行ってみたい!」とお願いして連れて行ってもらったところばかりなのでジャンルに一貫性はありませんが,いくつか「いま俺ゲイっぽいことやってるな」と思える瞬間もあり,コロナ収束後には更に開拓してみたいものだと心に誓いました.今日はそんな数少ないゲイバー歴の中で印象に残っているお話.

 

 

年上好きの僕には珍しく,その日は年下のセフレと飲んでいたのでした.彼はビール党かつ酒がかなり強かったため,既に2人でビアガーデンとスポーツバーを梯子しており,その後に僕のリクエストでゲイバーへ.僕はだいぶ出来上がっていましたが,連れの方はまだまだ飲める様子.運良く前の客と入れ違いにカウンターに通されつつ,ママに「お二人はこの店はじめてでよかったわよね?」など声をかけられ,嗚呼俺はゲイバーにやってきたのだなと感慨にふけっていました.連れの部屋までタクシーで1メーター圏内だったこともあり,ボトル入れて1本空けたら帰ろうかくらいのノリ.終電前後の時間帯だったかと思いますが,誰かの誕生日でシャンパンが全員に振る舞われたり,カラオケが始まったりと盛り上がっていました.僕らは相手をしてくれていた同年代の店子さんが披露するゲイバーの客あるあるに爆笑していました.

 

さして広くもない店内では一通り髭男やらあいみょんやら若めの選曲が続いていましたが,続いて流れ出したイントロに僕は耳を疑いました.加山雄三!?「君といつまでも」!??取引先とのスナック接待の成果として,昭和歌謡イントロクイズに関してはそれなりのレベルに達しつつあったわけですが,それにしたって若大将シリーズとは.選曲の主を探すと僕の真後ろのソファー席にいた男性.年の頃は60代後半といったところでしょうか?一人で来ている常連さんらしく,横にはママがついていました.賑わっているとは言え20代からギリ40代くらいの客層のお店でしたから,この選曲はちょっと無謀です.隣の連れも,カウンターを囲む客と店子もリアクションに困っている様子.

 

 

「ふたりを~ 夕ぅ闇が~♪」構わずおじいちゃんは歌い出しました.昭和のバラード特有の緩慢なメロディーが店を支配します.加えておじいちゃんの仕草や表情から,空気を読まないクセの強さがほんのりと漂っており,この居心地の悪さはどうにかしなければなりません.60年代に300万枚のレコードを売り上げた名曲ではありますが,恐らくこの方以外に,加山雄三と星由里子による日光は戦場ヶ原のデュエットシーンを知っている人間はいないのでしょう.そう,僕を除いては!!僕はカウンターに置かれたままのマイクを手に取り,おもむろに立ち上がりました.何を隠そう,わたくしshouldersは加山雄三世代ど真ん中であった父親の英才教育の甲斐あって映画・若大将シリーズはほとんど網羅しております.もちろん「エレキの若大将」も例外ではございません.この場を盛り上げるには僕が彼の澄ちゃん(ヒロイン)になってあげる他ない!

 

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本当にバカバカしい映画だけど,独特の魅力が詰まっています.加山雄三イケメン.星由里子オシャレ.

 

「君の~瞳はぁ~ 星と~輝き~♪」謎の使命感に駆られ歌い出します.おじいちゃんは目を見開い少し驚いた表情をしていましたが,どうやら受け入れてくれた模様.ハモるとかは無理なので単なるユニゾンです.それでも思わぬ乱入にバーのあちこちから野次が飛び,熱量が少し戻ってくるのを感じました.悪くない.悪くはないがもう一段ギアを上げるとどうなるか見てみたくなります.もちろん僕もノープランで飛び込んだわけではございません.この曲,加山雄三の代名詞とも言うべき間奏の台詞パートがあるのです.ここでうまく澄ちゃんを演じてあげることができれば,この場をかっさらうことができるでしょう.サビを一緒に歌いながらおじいちゃんに目配せ(台詞はお願いしますんで,ビシッと決めてくださいね)をします.するとおじいちゃんは僕を指差すばかり.しかも若干潤みを帯びた目で.

 

流石に,他人の曲に横から突然入ってきた挙げ句,一番美味しいところを持っていくのはあまりに下品な振る舞いです.傍若無人は僕の望むところではありません.身振り手振りで丁重にお断りしたのですが,それでもおじいちゃんは譲りませんでした.そうこうしているうちに間奏のストリングスが今にも聞こえてきてしまいそうです.仕方がありません.ここはありがたく若大将役を頂戴しようではありませんか.

 

幸せだなぁ

僕は君といるときが一番幸せなんだ

僕は死ぬまで君を離さないぞ いいだろ?

 

僕は酔った勢いで,間奏の台詞パートをニコニコしながら聞いていたおじいちゃんを抱き寄せます.決まった.完全に決まってしまった.僕のカラオケ史上,ここまで場が湧いたことなどあったでしょうか.バー全体から笑いと歓声があがり,ソファ席に座っているママも大爆笑.金切り声で叫んでいます.調子に乗った僕らはそのまま肩を組み,ゆらゆらと揺れながら「二人の思いは~ 変わらない いつまでも~♪」と歌い切ったのでした.大きな拍手が沸き起こります.

 

おじいちゃんが満面の笑みで手を差し出したので,僕は両の手でグッと握手を返し,それから一礼して席に戻りました.連れが「あれは何の曲だったんですか?」と聞いてきましたが,高校までイギリスにいた帰国子女に60年代東宝映画の趣を理解するのは至難でしょう.そんなことより,飲酒によって視床下部からはドーパミンが盛んに分泌されており,副腎髄質からは先ほどの興奮状態によってアドレナリンがドバドバです.隣に座って鏡月午後ティーストレート割りを飲んでいる連れの部屋に,今すぐにでもなだれ込みたい気分.

 

「君,可愛いね」突然声をかけられ振り向くと,先程のおじいちゃんがマイク2本とデンモクを手に立っていました.キョロキョロと落ち着きがなく,歌っているときから気づいていた通りなかなか様子のおかしな老人なのです.「ありがとうございます.さっきは台詞とっちゃってすみませんでした.このお店はよくいらっしゃるんですか?」とりあえず話を続けますが,早く店を出たくて気もそぞろ.自分のグラスをぐいっとあおってボトルの残りを確認します.すかさず店子さんがお酒を作ってくれつつ,「○○さんはこのお店がオープンしたときからのお客さんなんですよ」と教えてくれました.だから無下にはできない,ということでしょうか?

 

「うん,こっちの君も可愛いね」今度は連れの方にも興味を持った様子.居心地が悪そうではあったものの,一応の受け答えをしている様子から最低限の愛想笑いスキルが備わっており,欧米圏からの帰国子女にしては珍しい気がします.おじいちゃんはそのまま次に歌う曲を選んでいるようでしたが,世の中には引き際ってものがあります.還暦過ぎとアラサーでデュエットする昭和歌謡なんてネタ,これ以上引っ張るのは野暮です.

 

ここでつれない態度をとってお会計を済ませるのは容易いこと.しかし,先程のカラオケの成功体験がその意思決定を妨げます.店の空気を読み間違えたおじいちゃんを救ったような書きぶりをしましたけれど,実際には単に自分が目立ちたかっただけ.厄介なキャラクターのおじいちゃんをダシにして,束の間スポットライトの光を浴びたくてしゃしゃり出てきたお調子者が僕なのです.他人のホームに土足で踏み入って,用が済んだら全てを放り出してそそくさと帰っていくなど恥知らずにも程があります.

 

そんな葛藤の後,その日5杯目の鏡月午後ティーストレート割がコースターの上にすっと出された頃には,「仕方ない,もう1曲くらいは付き合って,それからお店を出よう」なんて心境になっていました.ところが.

 

「テキーラ,ぶんぶん!テキーラ,ぶんぶん!!」

 

明らかに泥酔していると思われる,底抜けに陽気な(そして正気とは思えない)掛け声が僕とおじいちゃんの間に割り込んできました.声の主はカウンターの斜向いで盛り上がっていた40代前半と思しきグループのひとりで,店中にシャンパンを振る舞っていた中心人物です.うわ言のようにスパンカーズのトラックを繰り返す彼の両手にはテキーラのショットグラス.僕らに飲ませようとしているのは火を見るより明らかでした.和をもって尊しとなすが信条の僕としてはこの誘いを断る選択肢はありません.うまくいけばエンドレス昭和歌謡タイムをうやむやのままに切り抜けることができるでしょう.

 


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「ウェ~イ」という間の抜けた奇声とともにエグみのある液体をぐいっと飲み干し,チェイサーとして午後ティー割を口に含みます.ライムの用意がないことに文句をいいつつ,今度はお返しにとコカレロを作ってもらってパリピ軍団の席へ.同時に店子さんにチェックをお願いすることも忘れません.そうこうしているうちに店内には再び耳慣れたJ-popが流れはじめ,どうやら加山雄三メドレーは回避されたようでした.

 

ショット合戦のせいでだいぶ出来上がってしまったわけですが,それからしばらくして這々の体で退散.お店を後にしました.結局その晩は連れの部屋ではお互いにすぐに寝てしまったものの,翌朝ベッドの上でいちゃいちゃ.普段年上の男性とばかり手合わせしている僕ですら,20代の肌のハリツヤには感心してしまうのでした.彼はこの1年ほど週1でパーソナルジムに通っているとのことで,確かに肩周りや腕周りががっしりしています.二日酔い特有の倦怠感の中,愛撫するたびに甘い声を上げる連れを面白がりながら,僕は昨晩のおじいちゃんに思いを馳せていました.

 

考えてみると,あのような年齢層のお客さんをゲイバーで見たのは初めてで,「高齢になったゲイはどこに消えてしまうのか」問題に対する疑問をぶつける相手としてはうってつけでした.確かに昨日は酔っていたし,興奮もしていたし,おまけにおじいちゃんの様子が少しおかしかったのも確かです.それでも,人生の先輩に話を聞く貴重なチャンスではありました.高齢者の集まるゲイバーってのはどんな雰囲気なのか.どうして若い雰囲気のお店の常連をやっているのか.普段は何をしているのか.結婚しているのか.彼氏はいるのか.ハッテン場には行くのか.そもそもまだ勃つのか.若いときにやり残したことはなにか.しばらく続くであろう老後をどんなモチベーションで過ごす予定なのか...

 

いや,やっぱり聞かなくて正解か.ゲイバーで「君といつまでも」を歌い続けていたいおじいちゃんに,そんな質問ってあんまりだもの.昨日,年内でのコンサート引退を発表した加山雄三は御年85歳.その年齢を鑑みれば驚異的なカッコよさを誇る元若大将にさえ,老いは平等に迫っているのです.せめてお酒を飲んでいる間くらい,そんな現実を忘れて楽しむのが正しい姿勢でしょうし,そう考えると昨晩の振る舞いもそこまで悪いものではないような気がしてきます.僕は飲み屋での取るに足らない出来事を大真面目に考えるのを止めて,照れ隠しに連れの耳たぶを甘咬みし,彼はまた眠たげな吐息を上げるのでした.