巨人の肩に立ちたいゲイ

30代ゲイのブログ。ゲイとしての考えたことをアウトプットしたり整理したりするような場にできればと思っております。やまとなでしこの頃の堤真一が好きです。

LGBTの自殺は本人のせい的な例のやつ

ちょっと前に両親からLINEでこんなyahooニュースの記事が送られてきました.僕は両親にカミングアウトしておりまして,2人とも一応の理解を示してくれているわけですが,時々このようにして関連するニュースなどを添えて意見を述べてくれたりするわけです.僕も内容を読んでみたのですが,まあいつものことというか,人の考えってそう簡単には変わらないですよねっていう事実を再確認したわけです.簡単に内容をまとめると,自民党国会議員(のみ)で構成される「神道政治連盟国会議員懇談会」の会合において,LGBTに対する極めてユニークな主張が記載された冊子が配布されており,それっていかがなものなの?という趣旨です.概ね同意です.「LGBT理解増進法案」のときに似たようなことを書いたので,基本的な考え方はそちらにまとめております.

 

news.yahoo.co.jp

 

shouldersofgiants.hateblo.jp

 

このような(少なくともLGBT意識高い系界隈における)炎上案件は,いろいろと世間の反応を見るのが面白くてヤフコメやtwitterを覗いてしまいます.今回の記事はyahooの個人オーサーの記事であるためコメント機能は付随しておらず,従って主にtwitterを眺めた観測をしていました.

 

やはり多かったのは「自民党って許せない!」というツイート.多くの場合「だから政権を変えよう!」と続きます.まあ分かります.そもそもこの時期にこのような記事が出てくるのは選挙を睨んでのことですし,別に僕も自民党を手放しで礼賛しているわけではありません.ただしちょっと一方的と言うか,これに同調する発言が自民党関係者からなされたわけではないということを念頭に置くべきでしょう.今回議論の俎上に上がっているのは「同性愛と同性婚の真相を知る」という弘前学院大学教授の楊尚眞氏による講演の原稿だそうで.そう考えると,会合で(招待?)講演者が述べた内容を基に,その主催者を批判するという短絡的な流れには慎重になったほうが良いかもしれません.少なくとも講演者の意見が必ず主催者のそれと一致しているわけではないですから.

 

このような主張をより直接的に述べている意見もあります.要するに「政権批判のためのパヨクによるフェイクニュース!」「この意見はあくまで学者本人のものである!」ってやつです.幸いなことに(?)「いやいや,普通にLGBTって精神障害だし依存症だよね」という主張はあまり見られませんでした.もしかして社会の理解が進んできている?単に興味がない?それともポリコレが怖いだけ?とは言え,この講演に先立って「神道政治連盟」は以下のような冊子を編集してHPに掲載しています.ここにも同じタイトルでもう少しマイルドな表現の楊尚眞氏の文章が掲載されています.

 

www.sinseiren.org

 

要は「神道政治連盟」が,弘前なんちゃら大の先生に「同性愛と同性婚の真相を知る」という原稿を寄稿してもらっていて,自身が編集責任を負っている会誌に掲載したと.その翌年に今度は「神道政治連盟国会議員懇談会」が同じ人に同じタイトルの講演を依頼したわけですな.「神道政治連盟」とか「神道政治連盟国会議員懇談会」が彼の主張を把握していなかったとするのは相当に無理筋ですし,だとすれば彼の主張に全く同調していないと考えるのも不自然.「生産性」でお馴染みの杉田水脈ちゃんとか,先述した「種の保存」おじさんこと簗和生議員もしっかりとこの懇談会のメンバーであることなども鑑み,まあお察しということですよね.もちろん,多くの議員の先生方が「いやそれは君,いかがなものかと思うよ」と意見してくれていたらいいんですけどね笑

 

やっぱり愛国保守で安直に支持率獲得できちゃうちょろい国民性の問題っすかね

 

別にいいんですよ.楊尚眞氏は宗教学者?のようですからね.以前のエントリでも書いた通り宗教はもう宗教なので,そのなかで完結して物事を整理してくれたらいいのです.少なくとも宗教,彼の場合はキリスト教という一種の公理系のなかで無矛盾性が満たされた主張をしている限り筋は通ります.でも今回はそこから一歩踏み出してしまって,自然科学にエビデンスを求めてしまっているのがいただけない.そこまで間口を広げてしまうと明らかな誤謬を含んでいますし,自然科学という別の宗教の信望者(例えば僕)の公理系に不用意な言及をすることになってしまいます.少なくとも客観的事実としてこの先生の自然科学のリテラシーが僕のそれを超えることはないでしょうし,従って線引きだけは間違えないでよねと言いたいわけです.

 

「三角形の内角の和は180度です」という性質は小学校で学びます.もちろんこれは正しいのですが,「ユークリッド幾何学においては」という条件付きで,すべての事象にこの性質をあてはめようとすると矛盾が生じます.例えば地球上の3点,ここでは北極と赤道上の任意の点,そしてそこから経度が90度異なる同じく赤道上の地点を結ぶ三角形を考えますと,内角の和は概ね270度となります.これは球面幾何学などと呼ばれるものを直感的に説明したものですが,他にも楕円幾何学やらロバチェフスキー幾何学やらいろんなものがあります.これらはそれぞれ異なる公理系を有しており,互いに一定の関係性はあるものの独立に成立します.一見して正しそうに思える主張も,その前提にどのような条件があるか吟味する必要があります.

 

宗教も同じです,たぶん.キリスト教がLGBTに対して自己矛盾なく言及できる範囲というのはおそらく「同性愛はよくありません.なぜならキリストがそう教えているから」「同性愛者は悔い改めなければなりません.なぜならキリストがそう教えているから」という程度のはずです.これは一分の隙もない完璧なロジックです.ただし,それを逸脱して「LGBTは完全に後天的だし個人の努力でどうにかなります.根拠はScienceに掲載された論文!」みたいなことを言い出すと,本職の人たちから「論文の解釈恣意的すぎひん?」となります.キリスト教の教義の範囲内においては完璧な主張だけれど,科学的な議論には耐えられません.所謂チェリーピッキングであり,典型的な詭弁論者の手法です.

 

結局,大事なのは自分が何を前提に「何を喋っているのか」を正しく把握する能力.球面幾何学のコンセプトを知らない人は,「三角形の内角の和は180度」という限定的な事実を絶対のものと考えてしまいます.これは当該分野において認識の階層がひとつ浅いから.同じように,宗教的な観点から物事を語るのであれば,それはあくまで自分の信じる教義に基づいた場合,という条件付きなのを忘れてはいけません.宗教に基づく主張は元来「神がそう教えているから」以上の汎用性を持つわけがないのです.まあ,互いに矛盾するする教義の存在を意識できずに(場合によっては意識的に無視して),盲目的な主張を繰り返すのが質の悪い宗教論争の常ではありますけど.

 

なんだか小難しいことを書きましたけど,このエントリの趣旨は「俺って球面幾何学知ってるんだぜすげーだろ」ってことです.怖いのは,自分が無知なことを知らない天真爛漫さ.僕より知識や思考レベルが深い人からすると,今日ここに書いた内容にも多くの誤りを指摘することができるのかもしれません.まあ,その時はちゃんと誤りを認めるのが真摯な科学者の態度なんでしょう.件の宗教学者さんや,その話を聞いて「やっぱりLGBTってけしからんよな!」なんて思っちゃった議員先生がいても,誰かに的確な指摘をされたら考えを改めて受け入れる度量は持っておいて欲しいものですね.