巨人の肩に立ちたいゲイ

30代ゲイのブログ。ゲイとしての考えたことをアウトプットしたり整理したりするような場にできればと思っております。やまとなでしこの頃の堤真一が好きです。

抱く男 抱かれる男

山手線外回りに乗っていてふと前を見ると,向いの座席に座っている女子中学生と思しき制服姿の女の子が桐野夏生を読んでいました.しかもそれが「抱く女」だったもので,お嬢ちゃんなかなか渋い選択をするねなどとマスクの下で薄気味悪い笑みを浮かべてしまったのでした.僕が初めて桐野夏生の本を読んだのは目の前のJCと同じく中学生のころで,当時映画だかドラマだか,とにかく映像化された人気小説だということで「OUT」を手に取りました.ミステリーというかサスペンスというか,とても緊張感があり生々しくて,しばらくしてエドガー賞にノミネートされたというのも納得.そんな彼女が書いた珍しく私小説風の作品が「抱く女」です.

 

抱く女 (新潮文庫)

抱く女 (新潮文庫)

 

 

抱かれる女から抱く女へ,というスローガンが叫ばれるようになった(らしい)時代のお話でして,これはこれで面白く,当時の時代感を知る人からすると更に面白いのだろうなという感想.それを,どう考えても平成生まれの少女が読んでいるというのは少し可笑しくもある光景でした.抱く女,つまり暗黙のうちにセックスの主導権は男が握るものとされた社会において,女が男を抱いたってよかろう!ということなのですが.ゲイのセックスでもやっぱりタチがウケを抱くという構図は支配的ですよね.

 

たびたびこのブログでも言及している通り僕はタチ寄りリバなわけですが,タチる際に体位の移行タイミングは基本的に僕発信ですし,ウケの場合は相手の意図をくみ取り,お望みのプレーに寄りそうことに徹します.身を任せることも大事なのでしょうが,ともするとマグロにも成りかねないウケという立場,セックスはタチとウケの共同作業ですから,リバであることの優位性をいかんなく発揮し円滑な一夜をお届けしたい!そう思うわけであります.それでも,僕が心の中に飼っている猫ちゃんはどこか人任せな一面があるのも確かで,こちらが想定する以上の何かを期待もしてしまうわけで...

 

shouldersofgiants.hateblo.jp

 

さて,そんな「タチはウケをエスコートし満足させてやるのが責務である!」という極めて封建的かつ男性優位主義的な思想に支配されている私ですが,所謂即ヤリというのは味気なくて好きではないのです.会ったその日のうちにイタすことはあっても,名作AVシリーズ「出会って4秒で合体」よろしく食事もせずにまずは一発,という出会いは好きではありません.しかしコロナの勢いが幾分か和らいでいた初夏のころ,ある魅力的なプロフィール写真の年下男性からメッセージをいただく機会がございました.曰く,すごくタイプなのでやりたいです,距離も近いですしこれからうちでどうですか?と.

 

これは新手の,いや古典的なロマンス詐欺ではなかろうかとも思われたわけですが,20代後半で所謂フィジーク体系とでも言いましょうよく鍛えられた上裸の後ろ姿,男らしさの感じられる横顔とそれを更に補強する端的で潔いメッセージ.ゲイ業界におけるヒエラルキー最上位のスペックを前にして成す術などあるわけもございません.今日は仕事も早く終わったし,チャリで10分の距離だし,相手の部屋だから準備もいらないし,最近ぜんぜんやってないし,すごいマッチョで男前でおまけにウケだし...と普段やらない即ヤリという行為を解禁するための言い訳を積み上げ承諾のメッセージを送信.これで俺,ゲイとしてまた一歩成長するんだな,という訳の分からない高揚感がこみ上げてきたことを覚えています.

 

そんなわけで,いそいそとシャワーを浴び歯を磨き,エロ過ぎず野暮った過ぎもしないローライズなボクサーをチョイス.更には1時間後に裸になった時に最低限の自尊心を保つため腕立て伏せを10回5セット.一時しのぎのパンプアップも狙っておきます.準備完了.チンコを勃起させたまま自転車を走らせるとすぐに彼の住むマンションに到着です.部屋に上がると照明は最低限の間接照明のみになっており,寝室はマットレス直置きタイプ.既に手練れであることが伺い知れます.しかも実物も写真通りの男前.これは僕の手に負えるのだろうか...

 

ともあれこれは噂に聞く即ヤリです.お互いに戦闘準備完了,面倒抜きにやるだけです.彼はウケとのことですから,いつものようにこちらがイニシアチブをとらないといつまでたってもコトは始まりません.即ヤリでキスって重い?まずは形式だけの会話から?それとも...そんなことを思っていると

 

「足舐めていいすか?」

 

へ?足?不意を突かれたもののタチとしての立ち振る舞いを崩さぬよう「おう」とかなんとか答えた気がするんですが,頭の中は???です.足ってあなた.しかし彼はこちらの動揺など意にも介さず跪き,突っ立っている僕の足の指に舌を這わせだすのです.なんとなくくすぐったくて気持ちがいいのですが,依然として戸惑いが勝っています.これって世間でいうところのSMと何が違うんだろう.もしかしてこの人,僕にSMプレーを求めてるの?そんなのできっこないんだが!?

 

それでも,僕のAVコレクションにおいてはそれなりに頻出のシチュエーションです.異常な状況もしばらくすると馴れてくるものでして,マッチョな男前が跪いている光景というのは当然ながらタチの興奮を掻き立てるわけですので,結果としてギンギンに勃起するというのはごく自然な生理現象であると言えます.そんな僕の息子に一瞥をくれると,彼は次なるフェーズに移行.手近のローションを手に取るとマットレスに寝転がり,百戦錬磨であることが容易に想像できるそのケツをほぐし始めました.そして挑発的に僕のほうを見るのです.これはもう端的に言って「猪木アリ状態」なのですが,どう考えても猪木のほうが手練れ.今夜即ヤリ童貞を捨てようというモハメド・アリに勝ち目などあるはずもありません.おとなしくされるがまま,身を任せるしかなさそうなのでありました.

 

試合のゴングが鳴り響き,まずは様々な体位を試してみるものの,どうやら彼はケツの締付圧力を自在に管理できるようでして,こちらのピストンに合わせていい具合の刺激を与えてきます.官能小説で使い古されてきた表現を使うのも悔しいのですが,これは完全に名器.俵締めというやつです.ただし少々締め付けが強いというか,チンコがそのまま持っていかれそうになる感覚です.興奮するけどちょっと怖い.しまいには背面騎乗位で完全に立場が逆転です.この役割,吸盤付きのディルドと大して変わらないのでは?というのは置いておくにしても,彼の力強い上下運動と締め付けを感じながら,プロフィール写真と同じ良く鍛えられた僧帽筋と広背筋,そしてアプリではハーフパンツに隠れて見えていなかった大臀筋を鑑賞していました.

 

コトが終わるとマットレスに横たわりながらしばしのピロートーク.仕事が暇になるとアプリに登録してセフレを探すんだと言う彼の横顔はあっけらかんとしていて,純粋にセックスを楽しんでいる様子でした.どんな仕事なの?と聞くと間接照明を少し明るくしてみせて,広くもない部屋の壁を指さします.そこにはよく整理された画材と,描きかけの大きなキャンバスが置かれていました.「油絵を描く仕事?画家なの?」という問いに頷く彼.画廊に所属して定期的に絵を描きながら,個展に出す大作も並行して制作しているんだとか.部屋に入った瞬間独特な匂いには気づいていたのですが,どうやら絵具とオイルのものだったようです.

 

別れ際,売れ筋のモチーフは気が乗らなくてもう2か月も納品が遅れていると笑う彼に,セックスなんてしてないでちゃんと仕事しろよと生意気にも年長者としてアドバイスを残してきました.藝大の油絵といえば最難関と聞きますが,彼は独学で,しかも現役で入学したといいます.絵描きというどこまでも繊細さを感じさせる営みと,先程までの激しい行為とのコントラストに目眩にも似た感覚を覚えつつ,初夏の夜道を自転車で飛ばします.即ヤリをつつがなくやり遂げた達成感はありました.しかし,精神的にも肉体的にもあの時僕は確かにウケに「抱かれた」のでした.