巨人の肩に立ちたいゲイ

30代ゲイのブログ。ゲイとしての考えたことをアウトプットしたり整理したりするような場にできればと思っております。

会員番号162.65.36に透ける不快さ - 銭湯サークル会長炎上事件の与える示唆 -

なんか色々あって,京都大学の銭湯サークルの会長さんが炎上していたのですが,ここ数年の中年~老年政治家による騒ぎとは違いかなり若い人のようでしたので,ちょっと興味を持って目を通すことにしました.このポスト,最終的には消えてしまう気もするのですが,アーカイブは残るでしょうから探したいひとはそちらを読んでみてください.

 

 

さて,本件は現在会長さんが一部発言について謝罪し終息を図ろうとしているように見えるのですが,その直前まで主に自分への賛同ツイートをRTしまくり,同じことをサークルのアカウント(おそらく会長が運営していると思われる)でも行っていたため,SNSの使い方が少し下手すぎやしないかという感想を持ちました.デジタルネイティブなZ世代などと言われますけれど,炎上対策なんて習わないですしね.

 

ただし,炎上したとは言え彼の見識が世間一般においてそこまで低いわけではないとも思うのです.メディアなどを見ていると,LGBTQ+な時代ですよね,などという雰囲気を感じることもあるのですが,結局多くの人は似たようなことを思っていたりするのでしょう.声に出さないだけで.でもまあ,それでも前進だとは思います.躊躇なく「ゲイってクソキモいよな」みたいなのが聞こえてくるのキツいですし.

 

今回なにが良くなかったって,「嫌いです」で済ませておけばよかったものを、なにか客観的な根拠を持ち出して正当性を与えようとしてしまった点なのかなと.彼が京都大学の学生ということもありこのような話を持ち出すのですが,頭の回転が早いとか,さすが高学歴,と称賛されるシチュエーションの多くは,その場で深い考察ができるという思考の「瞬発力」を評価されているのではなくて,既にその事象について聞いたことがある・考えたことがある思考「ストック」とそれを取り出す「検索力」に対してのものであることに注意したいわけです.この観点でいくと,僕自身も含めて当事者というのは、日頃からゲイの銭湯利用における葛藤や,ハッテン場の法的扱い,同性愛者という存在自体への問いに向き合ってます.同性愛者に関連する問題に限らず多くの領域については専門家であったり当事者というものが存在し,彼らには「瞬発力」では太刀打ちするのが難しいもほどの「ストック」があります.当該のサークル会長はストレート男性のなかでは銭湯やそれに付随する活動を通して「ストック」を蓄えていたのでしょうが,それは僕らのような当事者には及びません.

 

shouldersofgiants.hateblo.jp

 

shouldersofgiants.hateblo.jp

 

shouldersofgiants.hateblo.jp

 

学歴が担保するのは多くの点において「受験の文脈における思考ストック」であって,それは社会一般的に有用なものではあるのだけれど,例えば同性愛者の受容やホモフォビアといった局地的な論点においては必ずしも有効ではない.にもかかわらず,SNS上での議論が「ストック」の差に押し切られ「瞬発力」で対応せざるを得なくなり,結果としてジリ貧になっても引っ込みがつかなかった,ように感じられるのです.最初からロジックに頼らず「キモい!」という純粋な感情の発露であれば「マジでそれな」だったんですけど,「ゲイはキモい.これは広く観察される普遍的な事実である.そのメカニズムは...」と高学歴男性特有の分析の真似事を始めた結果,一般化したせいで主語が大きくなり,結果批判が殺到してしまったと.でもわかります.そーゆー文章書きたくなっちゃうよね.書いてるぶんには気持ちいいし.僕もこのブログで何度となくやってますし,今もその最中です...

 

大阪の某有名銭湯

 

冒頭に貼ったポストには「(ゲイの皆さん)共に銭湯から非常識なゲイを駆逐しましょう」ともあります.これも一連の苦し紛れな炎上対応のひとつに見えるのですが,意訳すると「銭湯でハッテン行為をするようなゲイは明らかな悪であり,一連の発言はそのようなゲイを指しているのである.そうでないゲイに対して悪意はないし,我々と一緒に『悪いゲイ』と戦いましょう」という,「ゲイの間での対立構造」を形成するような形式をとっているように見えます.一見すると筋が通っていているようにも感じますが,果たして『良いゲイ』は何をすればいいんでしょう.日夜ハッテンが行われている銭湯を調べ,行為が始まるのをじっと待ち,そして私人逮捕系youtuberのごとく大捕り物を演じればよいのでしょうか.全裸で?

 

以前,知らずのうちにハッテン行為が横行しているスーパー銭湯に足を踏み入れ「足をツンツン」された経験がありますが,その時点ではそれが相手からのアプローチであることを確信できませんでしたし,そもそもいかがわしい行為を目視したこがありません.ストレート男性と同じく,多くのゲイも銭湯におけるハッテン行為とは無縁なのです.

 

shouldersofgiants.hateblo.jp

 

『悪いゲイ』の起こしている迷惑はゲイが対処すべし,ゲイの中で自浄作用が生まれなければならない,という論調もあるようでしたが,それでは電車内における痴漢はどうでしょうか.銭湯でのハッテン行為とは比べ物にならないほど社会問題化していますが,ほとんどの『良いストレート男性』は痴漢もしたことがありませんし,目撃したこともないでしょう.そして女性に対する痴漢行為のほぼ全ては『悪いストレート男性』によってなされるでしょうが,鉄道警察と私人逮捕系youtuberの他にいったいどれだけのストレート男性が痴漢撲滅のために行動を起こすインセンティブを持つというのでしょうか.結局のところ,銭湯で他人に手を出そうとするゲイを駆逐したければ,見つけたらちゃんと警察に突き出す,という以外にありません.『悪いゲイ』は性的指向とは無関係にそもそも犯罪者であり,犯罪者に対処するのは『良いゲイ』ではなくて警察であるべきでしょう.

 

てなわけで,全体的な主張は過度な一般化が行われていて語るに値しないけれど,それでも個々の視点は示唆に富むものもありまして.今回注目したいのは「ゲイのtwitterアカウントはこの世で最も醜く汚い」というパワーワードであり,その論拠として提示されるのが「数字(身長・年齢・体重)を記載する因習」というキーワードなのです.twitterでもしばしば「会員番号」などと称して表示されるものですが,よくご存知だったなと.まあ件の会長さんはyoutubeチャンネルなどでゲイの視聴者と交流しており,彼らから投げ銭(のようなもの)で海外旅行に行く企画なども行っていたようですから,その中で教えてもらったのかもしれません.で,この数字について曰く

 

あれってつまり身体で相手を判断してるってことですよね?露骨すぎやしませんか?我々ストレートの人間とは根本的に感覚が違うような気がしています。

 

とのこと.お,おう...でも言いたいことは分かるのです.そもそも前半は正解だし.正直ナイモンでまともにアクションをもらおうと思ったら身長・体重・年齢は必須で,適当な数字を入れていても許されるのはイケメンかマッチョだけ.これは事実なのです.多くのゲイはこの数字に翻弄される生き物です.

 

しかしそれは出会いの場においてであって,例えば僕はtwitterにもブログにも会員番号など表示していません.なぜならここを(性的な)出会いのツールとして積極的に活用しようとは考えていないから.もちろん,僕自身がこの会員番号的な数字に若干の下品さというか即物的な印象を持っているので,出会い系アプリの文脈外で使いたくないというのもありますけれど,この考え方が少数派かと問われればそうでもないんじゃないな,と思っています.

 

で,ですよ.この身体(≒数字)で相手を判断するのよくなくない?ストレートとは感覚違わない?と言い切れてしまう精神性.これが非常に示唆に富むと言いますか.この数字や身体を「スペック」に一般化して考えたときに,男女の出会いにおいてこの「スペック」が絡まないなどということがあるのでしょうか?こと真剣度の高い婚活においては,身長体重年齢にとどまらず,年収・学歴・結婚歴・長男かどうか・酒・タバコなどあらゆるスペックを開示します.それこそ京大に山程あるインカレサークル.そこには(将来有望と思われる)京大男子目当てに他大学から女子学生が集まっていますし,京大男子自身も自覚的にそのような構図を利用している節があります.当然付き合ったり結婚まで行くこともあるわけですが,これも立派な「スペック」による出会いでしょう.

 

要するに,銭湯サークル会長さんは「世のストレートな男女は身体で相手を判断しないのである」というピュアピュアな考えの持ち主,ないしはゲイに対する嫌悪・差別感情に基づいて現実を無視した主張を試みている,ということになるのでしょうか.まあ彼がXでキモい絡みをされたりDM送られてきたりしたのは事実なんでしょうから,それはご愁傷さまだと思います.それがたとえ投げ銭やSNSでのバズを企図した試みの代償だったとしても.もちろんバイト先の銭湯でハッテンしたりノンケを凝視しまくっているゲイもいるんでしょう,きっと.でもね,それだけを切り取るのはちょっとフェアとは言い難いように思います.

 

「ゲイってみんな性に奔放だよね」みたいな物言いってわりと受け入れられるじゃないですか.でもこれはゲイに対する解像度が低いからですよね.会長さんが接してきたゲイって,彼にセクハラDMを送りつけるゲイか,車夫の格好している彼に「ゲイであることを半ば公にして」コミュニケーションを図るゲイなわけでしょ?一般ストレート男性の中では確かに接触回数は多いと思うんだけど,これってVtuberに投げ銭してる人種だけをサンプルにストレート男性全体を語るみたいなのであって.ほとんどのゲイは知らないノンケにDM送らないし,人力車に乗ったこともないし,銭湯でハッテンもしないし,プロフィールに会員番号とか🌈とかのっけたXのゲイアカウント運用しないんです.

 

でもね,葛藤もありまして.車夫のコスプレにはグッとくるものがございますし,男前なおじさまを指名するだけの胆力があれば僕だって乗ってみたいわけよ.ジムにしろ銭湯にしろ,そりゃあ好みの男性がいれば多少なりとも目で追ってしまうし.こんな自分の存在は社会においてどう位置づけられるべきかってのは割と昔から考えていて.他人に迷惑をかけているわけではないし,内心の自由はその発露が伴わなければ一般的に守られると聞いていますので,問題はないと思うのだけど,だからこそ無遠慮な視線を送るのはそれこそフェアではないなと自重する気持ちというか.ましてや欲情するなんてね.浴場だけにね.えへへ.