巨人の肩に立ちたいゲイ

30代ゲイのブログ。ゲイとしての考えたことをアウトプットしたり整理したりするような場にできればと思っております。やまとなでしこの頃の堤真一が好きです。

イケメンを追いかけて入社した話

前職の同期がそろそろ役職に付き始めるというはなしを耳にして,僕もいい年になったのだなぁと何やら味わい深い気持ちになりました.思えば,新卒で就職したのはもう10年近く前になるわけですが,当時は所謂リーマンショックから徐々に回復を見せつつも,3月の東日本大震災で一気に採用が混乱しているという市場環境でした.僕は特段やりたいこともなく,とはいえ周囲の優秀な同世代と比べるとそこまで自分に自信があったわけでもないので,少し早めに就職活動を始めておこうかななどと考えていて,主に外資系の企業の選考にチャレンジしたりしていたのを覚えています.当時,多くの日系企業は経団連の協定を守って4/1採用開始というスケジュールでしたが,メガベンチャーや外資系企業は前年の夏~冬にかけてインターンシップ経由で内定を出していましたので,まずはそこで練習をしておこうと考えたわけです.

 

いざ選考が始まってみると戦略コンサル特有のケース面接と呼ばれるフェルミ推定ごっこは面白く,投資銀行のインターンシップは5日✕18時間作業という超絶ブラック作業でしたが美味しい夕食と10万円のお給料つきでした.当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったメガベンチャーは...できたばかりのオフィスが不必要におしゃれで,イメージ戦略に苦心している様子が面白かったです.年が明ける頃にはいくつかの内定をもらい,オファーレターで年収なんかの提示もあっていよいよ入社承諾のタイミングというかんじだったのですが,そこでふと不安がよぎりました.「寝てる時間以外の全てを会社で過ごすなんておかしい!」「外資系だと結局英語ができないと出世できなくね?」「そもそも社員が偉そうでいけすかない!」「もう一度リーマンショックみたいなことがあったら,この会社も日本から撤退しちゃうのでは?」などなど,そんなの内定するまでにいくらでも考える時間はあったはずなのに.これが俗に言う内定ブルーというやつでして,就職活動を終わりにするのが不安になっちゃう症候群に罹患したのです.

 

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あの時入社していたら,どんなゲイライフを送っていたのだろうか

 

僕は悩みましたが,幸いまだ日系企業はほとんど選考が開始されていません.そっちでもいろいろ会社を見て回って,それから決めるのでも遅くなくない?特段外資系企業に入りたかったわけでもないし,内定を断るのだって学生の正当な権利の範囲内である!そう自分を納得させました.就職活動の山場である4月を目前にして震災が発生するなど動揺もありましたが,幸い在京企業で甚大な影響を被っていたのは東京電力くらいのものでしたので,僕個人としては興味を持てる会社の選考を粛々と進めていくだけ.結局GWを目前にこれまたいくつかの内定が出揃いました.むむむ.受けてはみたものの,なんとなく決め手に欠けるぞ?内定ブルーというより,もはやどの会社でも同じではないか?という一種投げやりな気持ちになっていました.8ヶ月に渡った長過ぎる就職活動が僕の心を荒ませたのでしょうか.しかし入社できるのは1社だけですし,日に日に断りを入れる心理的ハードルは上がるばかりです.ここらで覚悟を決めてる必要があります.当時職場に求めていた要素は

 

  1. 結婚しないし,ほどほどのお給料で十分
  2. ゲイなので絶対に東京に住み続けたい
  3. 転職市場で一定の価値が見込める業務に携わる
  4. 直近10年間の倒産・撤退リスクが有意に低い
  5. 両親や友人が知っているくらいには知名度がある

 

まあろくでもない条件ではありますけど,当時はそれなりに真面目にこう考えていました.結果,激務であることが容易に予想された戦略コンサルや投資銀行は除外し,東京勤務が望むべくもないメーカーの研究所も無し.ということで最終的に外資系IT企業とガチガチの日系土地転がし企業の1社ずつが候補となりました.企業文化は2社であまりに異なるため,まわりに相談してもアドバイスは要領を得ません.一方は米国発祥で日本での新卒採用初年度,もう一方は明治期創業でゴリゴリのドメスティック企業.同じ土俵で比較出来る要素のほうが少なかったのです. 

 

僕個人に対して良い評価をしてくれたのは,間違いなく外資系企業のほうでした.冬に内定を得て以降4ヶ月にわたって面談を繰り返し,想定される年俸のベースとインセンティブについて細かく説明してくれました.最後の方は配属されるチームのバイスプレジデント(だいたい部長くらいのイメージ)も出てきて,キャリアに関しての助言ももらいました.それまで新卒採用を実施してこなかった組織ですので,必然的に全社員が転職経験者です.当時聞いた内容は今考えても説得力があって,将来性から言っても正直断る理由などなかったと思うのですが,天の邪鬼な僕は優しくされるほど疑心暗鬼になってしまったのです.一介の学生にこれだけコストを割くなんて,なにか裏があるに違いない...!入社したら豹変してこき使われるに決まっている...!

 

一方の日系企業はと言うと,GW前後に内定が出てからは内定者懇親会の案内があったくらい.競合する総合商社の選考が震災の影響で後ろ倒しになっていたこともあり,そこでの内定者離脱だけは多少なりともケアしたかったようです.指定された日時に本社ビルに行ってみると,そこにいた内定者の過半数は似たような大学の似たような大学生で,もう半分は地主やら議員やら,有力企業の役員の子息という紛うことなきコネ入社の集団でした.社会なんて所詮こんなもんなんだなと思いつつ適当に時間を潰していたのですが,途中からはお酒も出てきてわりと宴会ムードに.学生たちは縄張り争いをするかのように競って一気飲みのコールをはじめています.酒は嫌いじゃないし一気飲みだって盛り上げるための手段としてはアリだと思う派ではあるものの,その場の主導権を握るためのマウント合戦に使われたのではアルコールが可愛そう.僕はなんとなく冷めてしまって,大人しく隅っこに引っ込みワインをちびちびやりながら人間観察を決め込んでいました.

 

すると,やたら体格がよく眼力のある男性が声をかけてきました.「Shoulders君,うちの会社に入るの迷ってたりしない?」内心,図星を付かれドキッとしたものの,恐らくこの場にいる学生の殆どは複数の内定を得ているでしょう.そう考えるとこの質問に深い意図はないはず.僕は取り繕って「え,第一志望の会社ですしもう入社は決めてますよ(笑)」とヘラヘラ返しました.そう言えば,この男性は会社説明会で進行を担当していたはずで,恐らく人事の採用担当なのでしょう.選考の最中に何度か見かけた気もしますが,間近で会話をするのはこの時がはじめてでした.少し色の入った髪は短く刈り込まれていて若さと精悍さを醸し出していますが,着ているスーツは恐らく仕立ての良いものなのでしょうか,全体としては大人らしい落ち着いた雰囲気も感じられます.僕の当たり障りのない返答に,彼はわりかし落ち着いたトーンで「それでも,内定承諾するのは一度しっかり考えてからにしてね.大事な選択だから」と真面目なアドバイスをくれました.

 

アルコールの力も手伝って会場は何となくリラックスした雰囲気だったこともあり,それから暫し就職活動のことや会社のこと,僕が取り組んでいる修士論文のテーマなどについて彼と話し込みました.そこでの会話は迷っている外資系企業の雰囲気とは対照的にどこか心地よく,何より人事担当者が僕好みの顔立ちだったこともあり,既に内定しているというのに遅ればせながら入社欲が高まっていくのを感じました.おまけに彼は学生時代にアメフト部に所属していたようで,なんとも美味しそうな身体...ジュルリ

 

しかも周りを見渡すとそれなりに見た目の良い男女が揃っているような気がして,自分がその一員になるかもしれないと思うと嫌な気はしません.それどころか,学生時代は目立ったゲイ活動をすることもなく初心だった僕は,「社会人になったら彼氏とかもできちゃうんだろうな」などという無根拠な期待に胸踊らせた挙げ句,笑顔で会話に付き合ってくれている感じの良い採用担当者を目の前にして「こんな人が彼氏だったら幸せだろうな」とまで妄想していたのです.社内には他にもイケメンが転がっていそうだし,なんなら向こうの方に立っている人事部の課長もなかなかに魅力的なおじさんじゃないか.

 

気づけば内定者懇親会はお開きの時間になっており,コールを主導していた学生たちは早速二次会の計画を立てている模様.先程まで一歩引いたところから遠巻きに眺めるだけだった彼らに対しても「未来の同期たちとは仲良くしておいたほうが良いよな!」という突然の前向きな感情が湧き上がってくるのでした.そんなこんなで,僕の数ヶ月に渡る内定ブルーは一度の内定者懇親会で一瞬のうちに霧散しました.イケメン採用担当に話しかけられたという,たったそれだけの理由で.その後,日を改めて「内定承諾書」なるなんの法的根拠もない書類を提出し,最後まで悩んだ外資系企業には丁重に辞退の旨を連絡しました.こうして僕の長い就職活動は幕を閉じました.

 

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就活は大変だったけど,世の中の仕組みがよく分かるイベントでした

 

結果から言えば,その後4年ほどでこの会社を退職することになります.イケメンが決め手で入社を決めるという当時の意思決定を責めるのは容易いけれど,実はそこまで後悔しているというわけでもありません.これまで割りと戦略的に理詰めで自分のキャリアを選んできた僕にとって,ある種思い切ったイレギュラーな選択は人生の幅を少しだけ広げたような気がしています.内定を辞退した企業の現在の躍進ぶりを見ると,大抵の人には「なんてもったいない!」と言われるのですが(そして僕もそれに同意するのですが),前職でなければ経験できなかった仕事や人脈というのは確実にあって,今の僕にとっては大きな財産なのです.

 

流れ着いた今の職場には満足していますし,新卒入社のチョイスも比較的肯定的に捉えている僕ですが,それでもこのトピックから無理矢理教訓をひねり出すとすれば,「学生時代にもう少し色恋沙汰を経験しておくべきだった」ということですかね.やっぱり耐性がないと年上男性の魅力(しかもスーツで倍増している)にコロっと騙されて,非論理的な意思決定をしてしまうので.世の中いい男は無数にいますから,いくらなんでも人事の容姿で就職先を決めるというのは思慮に欠けると言わざるを得ません.

 

ちなみに,入社を決意する直接的な要因となったアメフト出身のイケメン採用担当,僕の在籍中に不倫が発覚して修羅場を演じるという事件がありました.当時,彼は同期の女性と新婚であったのにも関わらず,婚約前から続いていたグループ会社の社員と切れておらず,定期的にお泊りデートを繰り返していたとのこと.そんな身近なコミュニティで食い散らかしてたらバレるのも必然で,慰謝料を請求された挙げ句に出向を命じられていました.彼の性欲の強さは初対面のときに感じ取ったとおりだったわけですが,いまだ退職せず会社にしがみついているところを見ると,体育会特有のふてぶてしさがいかんなく発揮されているようで微笑ましいです.ついでに,ちょっと魅力的に見えた人事課長も,これまた強制わいせつで書類送検され社内外をざわつかせました.ここまで醜聞の絶えない組織というのも異常ではありますが,とにかく学生の見る目なんて所詮はこんなもの,ということですね.